ボイタ法のリハビリ人生の始まり

出産前、後に何らかのトラブルがあった場合、

もしかして愛する我が子に障がいがあるかも…

と不安が襲いかかってくる。

私の場合東京のT病院で妊婦検診を受け、

なんの問題もなく妊娠生活を過ごせていたが、

まったく予想外の出来事で、

里帰り出産した時の分娩中に赤ちゃんの呼吸が止まってしまい、

息子は出産時仮死状態で生まれた。

総合病院での出産だったことだけが幸いで、

小児科の先生がすぐに駆けつけて下さり蘇生して頂いたおかげで

息子の命を助けてもらう事ができた。

脳に酸素がいかない時間があったため、

もしかしたら成長するにつれて、

運動面で何か障がいが出てくるかもしれない

と先生から後日聞かされた。

一体どうすればいいのだろう??

と不安が募っていった。

出産前に妊婦健診を受けていた東京のT病院に戻り乳児健診に行き相談してみると、

「まだ小さいので、1才位まで様子をみましょう。」

との回答だった。

私は出産直前の年度末まで保育士をしており、

息子を抱っこした感じが他の赤ちゃんと何か違うと感じていた。

首のすわりが90%位で、いまひとつしっかりしない感じがしていて気になっていた。

様子をみているだけではただ時間が過ぎるだけだし、

この子に何かしてあげられる事はないのだろうか…?

と気持ちだけが焦っていた。

一刻も早くリハビリをしてもらいたいという私の気持ちを察してか、

「それではリハビリをやってみますか?」

と勧めて下さり、私は、

「やります!」

と即答した。

それが今から約25年前の 息子の リハビリ人生 の始まりだった。

生後5ヶ月の時から半年間位、ボバース法のリハビリをやってもらうようになった。

無我夢中で子育てをし、リハビリに通っていた。

スキンヘッドの表情豊かな理学療法士のH先生で、

息子と目線を合わせながら腹ばいの姿勢を教えたり、

お座りの姿勢を支えて教えてくれたりした。

息子は寝返りするのも遅かったし、

腹ばいになり頭を持ち上げるのも少し不安定で、

お座りするとしっかり支えられず、背中が前かがみのようになってしまっていた。

 

            by  mari.A

しかし、ボバース法のリハビリしか知らなかったので、

毎回リハビリに行き少しずつでも変化がみられ、

成長できていることで別に何の不満もなく、

リハビリというのはこういうものだと勝手に思い込んでいたのである。

しかし生後11か月の頃、東京の主治医が

私の出身地でボイタ法をやっているところを紹介して下さった。

当時東京ではボイタ法をやっているところはなかったからだ。

主治医の先生は息子の様子を見て良かれと思って勧めてくださったのだと思うが、

ボイタ法のことや歴史について何も知らなかった私は、

せっかく日本の中でも超一流のT病院で診てもらっているのに、

地方の病院へ行ったらどうか… と言われたことは、

私の心の大きな挫折となって感じられていた。

今後は装具を付けないと歩けないだろうし、

成長と共に装具を作り変えなければならなくなるだろうから、

ボバース法でなくボイタ法をやってみたらどうかという事だった。

ボイタ法ってなんだろう?

ボバース法のおかげでゆっくりと、のんびりじわじわと成長していた息子だったが、

当時は東京に住んでいたので、とりあえず藁をもつかむ思いで

新幹線でボイタ法のリハビリを受けるために静岡に通うようになった。

初めてボイタ法の理学療法士であるY先生に診て頂いた時、

先生は裸で上向きになった息子の胸下を親指で押し始めた。

ほんの数分だったと思うが、終わるとすぐに先生は、

「お母さん、首が乗りましたよ!」

と息子を抱き上げ、私に抱っこさせてくれた。

あれっ!!?

違う! 全然違う!

息子の首は、一瞬にしてしっかりとすわった

というか、普通の赤ちゃんの状態になったのである。

何!?

これ何ですか?

指圧ですか?

魔法??

と思う位の出来事だった。

神業?

 

これがボイタ法との出会いである。

ボイタ法の施術を受ける事により、

あれよあれよという間に動きの変化がみられるようになった。

2〜3回の施術での変化は、

首のすわりがしっかりし、

口の開け方が大きくなり、                  

腹ばいの頭がしっかり上がるようになったことである。

1ヶ月後位には、腹ばいからよつばいの姿勢が出来るようになり、

ボイタ法の効果がさらに目に見えて現れてきた。

ちょうど息子が1才になる頃だった。

 

新幹線で東京から半年位通っていたが、

息子の為にボイタ法の効果を信じ、

続けてみようと思い1才半頃引越しを決めたのである。

東京の病院で今後は装具を付けないと歩けないだろうと言われた事を話すと、

「装具は必要ありません。」

との事。

そういえば、ここに通いボイタ法を受けている患者で装具をつけている子はほとんど見かけなかった。

ボイタ法って、いったい何なのだろう??

と思いながら、

息子に起こった奇跡のようなものを信じ、

今後はボイタ法のリハビリを頑張ってみようと思ったのである。

ボイタ法との出会い、

そして息子の大恩人となるY先生との出会いが、

息子の人生を大きく変える事ができた一番の出来事である。

これが無かったら、今の息子はあり得なかったと断言できる。

現在は県職員となり一人暮らしをし何とか生活できるようになったが、

ボイタ法のリハビリはまだやめたくないと言い、27才になる現在も通い続けている。

 

Y先生の手は、その後も今も多くの患者、子ども達に大なり小なりの奇跡を起こしているのである。